大腸がん
大腸がんとは大きく分けると結腸がんと直腸がんの二つがあります。盲腸からS状結腸までにできるがんを結腸がんと呼び、直腸から肛門までにできるがんを直腸がんと呼びます。そして、この二つをあわせて大腸がんと呼びます。
また大腸がんは形態によって腺がんと表在性のがんに分けられます。大腸がんの90-95%を占めるのは、粘膜層の腸腺に発生する腺がんです。これは、大腸の内側にできるポリープ(良性腫瘍)の一部ががん化し、腸壁の内部まで浸潤していくものです。
このタイプの大腸がんは比較的発見が容易です。またポリープががんに変化するまでには何年もかかるため、ポリープのうちに切除すれば、がんを予防することができます。
これに対し、もう一方の表在性のがんは、初めから粘膜表面にそってがん病巣が広がります。そして、腸壁の内部に広がったり腸の外側へ飛び出したりしないため、通常の造影剤を用いたエックス線撮影などでは発見しにくく、進展するまで気づかないこともあります。しかし近年、大腸がんの検査技術は急速に進歩しており、初期がんでも発見率が上昇しています。
がんは、1981年から日本人の死因の第1位であり、今では3人に1人ががんで亡くなっています。現在では大腸がんは増加の一途にあり、その死亡者数は、1970年から4倍以上にもなっています。
進行大腸がんで手術ができない方の場合、約10年前には抗がん剤を使用しなければ平均余命は8カ月ほどでした。現在では、分子標的薬剤を含む抗がん剤治療の進歩により約2年にまで延びてきています。
スポンサードリンク
「分子標的薬」による大腸がん治療
最近の抗がん剤治療の進歩で、特に注目されているのが分子標的薬剤です。がん細胞に特有の変化や遺伝子を標的とし、その標的に選択的に作用します。従来の抗がん剤と比較し、正常細胞への影響が少ないため、副作用が少なくなることや、より高い効果などを期待できます。
国内で大腸がんの適応を有する分子標的薬には、血管新生阻害薬(ベバシズマブ)や抗EGFR抗体薬(セツキシマブ、パニツムマブ)があります。
がん治療では、がん細胞の異常な増殖を止めなければなりません。抗EGFR抗体薬は、細胞増殖のスイッチであるEGFR(上皮細胞増殖因子受容体)を標的に作用するため、がん細胞の増殖を止めることができる分子標的薬です
大腸がんの「個別化治療」とは
抗がん剤治療の前に遺伝子検査を行うことで、一人ひとりに適した治療を選ぶことができます。これは「個別化治療」と呼ばれ、大腸がんでも実施されるようになりました。
細胞内に存在するKRAS(ケーラス)と呼ばれるタンパク質も、がん増殖に関わることがわかっています。したがってKRAS遺伝子を調べることで、セツキシマブなどの抗EGFR抗体薬の効果を予測できます。
KRAS遺伝子の変異がない場合(野生型)は、抗EGFR抗体薬の効果が期待できます。最新の「大腸癌治療ガイドライン」でも、KRAS遺伝子に変異がない患者さんへの抗EGFR抗体薬の使用が推奨されています。
変異がある人は約40%と言われています。変異型の場合、他の治療法を選択して無用な副作用を避けることが、医療費を抑えることにもつながります。
したがって、個別化治療の実現に向けて、抗がん剤治療を始める前にはKRAS(ケーラス)遺伝子の検査が必要になります。
セツキシマブ(商品名:アービタックス)
2008年に国内で発売されたセツキシマブは、「治癒切除不能な進行・再発の大腸がん」と診断された患者さんが投与の対象です。
また、外科手術による切除が不能と診断された場合でも、セツキシマブと標準的な抗がん剤の併用で腫瘍を縮小させて切除が可能になると、治癒(5年生存)の可能性が高まることが報告されています。
セツキシマブを用いた臨床試験では、従来の標準治療と比較してがんが悪化するリスクを31%抑制し、生存期間も約2年にまで延長することが確認されています。
パニツムマブ(商品名:ベクチビックス)
ベバシズマブやセツキシマブと同じく、進行・再発の大腸がんを対象とした分子標的薬です。欧米では大腸がんの治療薬として認可されていますが、日本では未承認です(2008年6月、武田薬品が製造販売承認申請を行ないました)。
がん細胞の表面に出ているEGF(上皮細胞増殖因子)の受容体に自ら結合することで、がんの増殖を抑えるはたらきをします。
パニツムマブは、セツキシマブと違い、完全ヒト化抗体であることから、注射投与中または投与後に現れるアレルギーによるトラブルが起こりにくいというメリットがあるとされています
しかし、セツキシマブでもこのアレルギーのトラブルはまれにしか起こらないと報告されているので、完全ヒト化抗体の薬が登場しても、大きな変化にはならないなどの、意見もあります。
海外での治療成績も、セツキシマブとほとんど一緒です。ただ、パニツムマブは薬価が抑えられているので、少し治療費が安くなるという点で評価されると予想されています。
スポンサードリンク
ベバシズマブ(商品名:アバスチン)
2007年4月に承認された世界初の血管新生阻害薬で、他の抗がん剤と併用することでよい治療成績が得られています。
がんが増殖するに伴って、がん自身に栄養を供給するために血液を送りこむ血管を新しく作ります(血管新生)。ベバシズマブは、この血管新生を促すためにがん細胞が分泌するVEGFというタンパク質に結合して、血管の新生を抑え、栄養を行き渡らせないようにして、増殖のスピードを低下させるはたらきがあります。
さらに、がんそのものの異常血管を修復して正常化するはたらきもあります。そうすると抗がん剤ががんに届きやすくなるので、大きな治療効果を得ることができるのです。