-肺がんの胸腔鏡(きょうくうきょう)手術-


肺がんの胸腔鏡(きょうくうきょう)手術

一般的な手術と胸腔鏡手術

肺がんの一般的な手術では、横向きに寝た患者の肩甲骨に沿って、背中側から胸の側面まで40センチほど切開し、肋骨と肋骨の間を器械で押し広げて手術します。この方法が肺がんの標準治療として確立されている反面、胸の筋肉を切断するため、治療後の痛みが長く続き、患者への負担が大きいです。

これに対し、体を大きく切らずに済む方法が胸腔鏡手術です。体の側面に2-3センチの穴を4、5か所開け、小型カメラ(胸腔鏡)や自動縫合器などの器具を差し込み、カメラが映し出した内部の映像をモニターで見ながら、器具を操作します。

胸部を切る手術は、胃や腸など腹部の手術に比べても、手術後の痛みが強いです。胸腔鏡手術は、この痛みを著しく軽減できます。衰弱して通常の手術では体力的に耐えられない方や、高齢の患者でも行える点も長所です。

慈恵医大外科教授の森川利昭さんによると、平均的な手術時間は3時間余で、開胸手術より約1割長いですが、手術後の入院日数は約1週間と従来の半分程度に短縮されるそうです。


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胸腔鏡補助手術

「胸腔鏡手」は、術患部を肉眼で直接見ることができないなどの制約から、外科医には高い技術が求められます。肺がん手術ではとくに、肺と心臓を結ぶ肺動脈などを誤って傷っけてしまうと大出血を招き、命にかかわります。胸を大きく切る手術では迅速にできる止血措置も、胸腔鏡手術では難しいです。

このため、完全に胸腔鏡だけで手術するのではなく、胸腔鏡のモニター映像は補助的に用いながら、通常の手術より小さい10センチ足らずの切開口から肉眼でも見ながら手術する「胸腔鏡補助手術」も広く行われています。

胸腔鏡手術は1992年、原因不明で肺に穴が開く気胸などの手術から始まり、次第に肺がんのような難しい手術にも使われるようになりました。森川さんは2000例を超える胸腔鏡手術の経験を持ち、10年前から肺がん手術にも本格的に導入しました。

一般的には、リンパ節転移のない早期(1期)の肺がんが胸腔鏡手術の対象となり、5年後の生存率は、通常の開胸手術の場合と変わらない成績をあげています。森川さんの場合は「それより進んだ肺がんでも、可能なら胸腔鏡で行う」方針だそうです。

胸腔鏡など内視鏡を使った手術は高度な技術が求められるだけに、消化器外科や婦人科、泌尿器科の学会は、手術の実技ビデオ審査による技術認定を始めました。しかし、肺がん胸腔鏡手術などの呼吸器外科分野では、技術認定はまだ実施されていません。医師によって、手術の方法も少しずつ異なります。手術経験数や長所、短所など、よく説明を聞いたうえで治療を受けてください。

肺がんの治療

肺がんは喫煙の影響が大きく、年間死者数は57000人と胃がんを抜いてトツプになりました。患者の85%は「非小細胞肺がん」というタイプで、早期なら手術などによって根治が期待できますが、「小細胞肺がん」という進行が早く悪性のタイプもあります。リンパ節転移が広がって進行した場合には、シスプラチンなどの抗がん剤と放射線を組み合わせた治療が中心になります。

また、がんが肺にとどまって手術での根治が期待できる1期のがんに対して、放射線をピンポイントで照射する治療が2005年に保険適用されました。体力的に手術が難しい高齢患者らへの体に負担の少ない治療として期待されています。


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関係医療機関

慈恵医大病院


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